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あのね帳

文章の練習

ゴキブリと遭えない部屋に住んでいる

 大学の友人であるところの牧山くんと鈴木くんとご飯を食べた。東京の企業に就職した鈴木くんが、恋人に会いに筑波に帰ってきたということで、その恋人氏を牧山くんと二人がかりでハイエースに連れ込み、山奥の小屋に監禁し、あられもない写真をネタに脅迫し、やっとの思いで鈴木くんと食事する権利を手に入れたのであった。初夏の筑波山は思いの外冷えるので、かわいそうな恋人氏には電気毛布を買い与えた。しかし、人里離れた筑波の地に、電気水道その他のインフラが引かれているはずもなく、決して温まることのない80ワットの電気毛布は、溢れる涙をぬぐう布切れにしかならないのであった。

 さて、牧山くんは我が大学きってのイケメンであり、鈴木くんもまた我が大学きってのイケメンである。ぼくが女であったなら、両手に美男子を抱え、じゅうじゅうと炭火で焼かれた肉を貪る様は、まさに肉欲の権化そのものであり、町中の女子の嫉妬と畏敬の対象となったことだろう。しかし(今まで黙っていて申し訳ないのだが)ぼくはまごうことなき「ブ」のつくオスであるから、煌びやかな二人の陰で、ただただ自らの残念さを引き立たせるハメになった。

 思い返せば、牧山くんと鈴木くんは、入学当初から、ぼくらモブと比べ、頭二つ、いや三つほど垢抜けていた。彼らは、入学式の日にはすでに、髪色をまるで刷りたての十円硬貨のように茶色く染め上げ、キラリと光る歯を見せながら不敵に笑っていた。人間関係のストレスに、十円ハゲをキラリと光らせ、力なくヘラヘラと笑うばかりのぼくとはえらい違いである。髪色など、一度も染めたことがない。永遠の黒である。昆虫になりたい。ムシキングの世界であれば、ぼくは「黒いダイヤ」オオクワガタで、彼らはチャバネゴキブリである。しかし残酷なことにこの世界はムシキングではないし、ムシキングにゴキブリは登場しない。

 焼肉を食べ、近況を報告しあい、学部の同期の女の子に似たアダルト動画を見つけた話で盛り上がった。本当に楽しい食事だった。

 まあ、そんなわけで、旧友と久々(といっても半年ぶりくらいなのだが)の再会を果たしたのであった。僕らが全員学生であったころは毎日のように顔を合わせていたものだから、半年会わなかっただけで、なんだか、果てのない時間旅行にでも行ってきたような気持ちになる。

 彼らと次に会えるのはいつになるのだろうか。無事に再会できるよう、皆が健康であれば嬉しい。

 でも、次に会った時に、あいつらの高い鼻が自転車にでも轢かれてベキベキにへし折れていたらもっと嬉しい。