あのね帳

文章の練習

家電製品の擬人化を見るたびに、電子レンジの一人称は「朕」にするべきだと思う

 電子レンジが壊れた。

 「食」の全てをコンビニ飯に頼っているぼくなので、チルド弁当や冷凍食品を食えない世界は色を失い、あらゆる景色は温め不要のおにぎりと同じ白黒に見えた。ぼくがV系バンドのボーカルだったら、「世界ガ壊レタ」みたいな歌詞をルーズリーフいっぱいに書き殴っては消してを繰り返し、ベースあたりから本気で心配されていたことだろう。

 「壊れた」と一口に言っても様々なケースがあるが、うちのレンジの場合は、あたためがスタートして2秒ほどで電源が落ちてしまう。液晶にエラーコードが「H97」と表示されたので、型番と一緒にググってみると、なんと便利な世の中だろうか、エラーの原因がまとめられたページが出てきた。以下、コピペである。

 

 (レンジ作動中、インバータ基板の作動信号がマイコンに入力されない時。)インバータへのAC100V入力(スイッチ・リレー・制御回路)・ インバータへの制御信号・ インバータの作動信号・ インバータ基板(発振不良・高圧不良・作動信号)・ マグネトロン(ヒータ断・アノードーカソード間絶縁不良および発振不良)※H97表示の場合、再作動させるとH98表示に変わることがあります。

 

 一瞬でぼくは新しいレンジの購入を決めた。よくわからないが「ご自分での解決は無理です」と遠回しに言われていることだけは即理解できた。

 

 すでに電子レンジは「母親」に近しい存在まで昇華していた。一台の家族を失ったぼくには、悲しみの時間、すなわちフロイトのいう「喪の作業」が必要かもしれないと思った。新しいレンジが届くまでの束の間の時間、動かなくなった小さな箱を抱えて眠ろうかとも考えたのだが、マイクロウェーブとかなんか人体にヤバそうなのですぐに捨てた。

 

 「レンジがお亡くなりになった。ち〜ん」って書き出しにしようかめちゃめちゃ迷ったけど、絶対に止めて正解だったな。